父に「父」と話しかける娘

クリニックでの診察が終わった後、処方箋を持って薬局に行った。土曜日だからだろうか、待合室は満員だった。薬剤師の人に処方箋を渡してあたりを見回したら一つだけ席が空いていたのでそこに腰を下ろした。しばらくすると隣の席の人が呼ばれて席が空いた。そこへ、小太りの男性が手にレジャー関係の雑誌を持ってすわり、熱心に読み始めた。二、三分経った頃だろうか、その男の人のところへ小学校低学年頃の女に子がやってきて、

 「父、母がこれ使っておいてと言ってた」

と言って、しばらく離れたところに座っている母親の横の席に座った。

 かなり以前、「崖の上のポニョ」という作品を見ていたら、母親を名前で呼んでいる男の子が出てきた。それからあとは、そのことが気になって映画に集中できなくなった。

 あの時はまだ名前を呼んでいた。今回は、「父」だ。あの女の子はお母さんにも「母」と呼びかけいているのだろうか。

 隣の男性に訊ねてみようとも思ったが、勇気が出なかった。辞書を編纂したり、日本語の変化を研究している人であれば訊ねていただろうなと思った。